第21話 紅塵浮夢

novel

啓徳空港カイタックの到着口を出るとテイさんが手を振っていた。

成田便の到着時間は俺たちの便と変わらぬ時間だったが陳さんは見えない。

しばらく陳さんをイミグレーション前で待ったが見えなかったので先に出たのだ。

「テイはぁーん!」

<デっけい声・・>

「ハハハあ すぐ会えましたね」

「テイさんどうして・・」

「ハハハハハあぁ チェンは来ませんねー。夜の広州行く飛行機に乗って明日珠海から澳門マカオに行きますねー」

「はぁ?・・はい。そうですか・・」

「だいじょぶダイジョブー 私が澳門に案内しますからー ハハハハハあ」

「ハハハハハあ ダイジョブかぁいなぁー ほなええやん!」

<・・お気楽・・ね・・>

「はいどうぞー」

と、携帯電話を差し出すテイさんの先、

「もしもし・・」

「おうソン君か。着いたか。あの野郎、山手線で2時間も寝てたらしいぜぇ。ったくよー。とにかく鄭テイとマカオに行ってくれ・・それとカジノの事だが、間が悪いわな。こういう時はやめた方がいい」

<あちゃー・・カジノ用のメモ・・読んでねぇや・・>

と、陳さん事情と、テイさんが案内してくれること、カジノ用の金は現地ストックと聞き電話を切った。

その後は鄭家の在る香港仔アバディーンに行き、テイさんファミリーと水上レストランで海鮮を

喰ったり、大平山ビクトリアピークに登って夜景を観たりと過ごし、

明けて澳門行きの高速艇に乗った。

拱北口岸ゴンベイという国境で陳さんと会うと言うので澳門サイドで待って居ると、ヘリが爆風をたてて降りて来た。金網の向こうのそれから降りた男性は間違いなく陳さんだ!

「おおーい!チンさーん!」

思わず大声で叫んだ俺(達)に大きく頭を下げる。

入管の建物の向こうには、中には入り切れない人たちの列が見える。相当な時間を覚悟して待って居たがものの10分ほどで出てきた!

「早くないですかー?」

「ななな・・なにがですか?」

「・・いえ、通関が、意外と早かったので」

「あああ・・あの、わわわ、私は別の窓口から出ました。こここ・・これが証明書です」

と、特別入国許可書を見せてくれた。

昨夜、広州から深圳の本社に行き、その本社のヘリで来たという陳さんが続ける。

「今日の予定は法務局に行き、新会社の登録証を受け取ります。申請した会社名が通過しました」

<ドモリとこの差はピクチャーに有る無し?>

「会社名ですか?」

「Laços Remédioラジョスレメディウ、日本語の意味は、『絆薬品』です」

<ピクチャー有りだ!じゃ念のため>

「ところで陳さん、今日は服装がキマってますね!」

「あああ・・あの、いいい・・いえ・・こここ・・これは・・」

だいぶん陳さんが解って来た気がした。

テイさんを港に送り、俺たちはそのまま法務局で登録証を受け取り、当面の宿の風順堂區フレゲジアに在る金龍酒店にチェックインした。

このエリアはマカオの10在る行政区の第5区で、湾仔に面して海も見え飯屋も多くあり気に入った。

夕食時間になり、陳さんがこのホテルを選んだ理由が判った。

河邊新街という通りを渡った目の前にある、海湾餐庁というポルトガル料理屋に迷わず入る陳さん。

「こここ・・ここは何を食べても美味しいですが、わわわ・・私のお勧めでいいですか?」

<ん?・・パターンなら・・そこドモルらない・・筈>

「俺これ喰いたいわぁー」

と、メニューの写真を指差すヒンに、

「ははは、はい。そそそ・・それも私の・・おおお、おすすめです」

<おぃおぃ・・そこもパターンじゃピクチャーinじゃん・・>

「啊,歡迎嚟あらいらっしゃい」

「啊・・にににににに・・你好・・うぉうぉうぉ・・我面要・・咖喱蟹はははは・・还有・・・・」

5つ6つのオーダーに、あり得ないくらいドモリが派手な陳さん・・

「阿陳、你可以慢慢講,沒問題。我會等,所以你可以放心(ゆっくり話していいよ。私、待つわー)」

陳さんの正面に座り、両手にあごを乗せて微笑む女性。陳さんはメニューを握りしめ女性の顔を見ようともしなかったが、それからはドモリ加減が普段の陳スタイルにはなった。

その後も、この女性が近くを行き来すると首をぎゅっと折畳み顔を下げて見ない振りをしていた。

「なんやぁーチンはん、あの人のこと好きなんとちゃいますかぁー?」

<ヒン・・それを言っちゃ・・>

絵に描いた様にドキリとした顔の陳さんは立ち上がろうとしたり、座ろうとしたり落ち着かない。

「はい。好きです!」

起立をしてそう言った。

「ええやん!綺麗な人やしぃー よっしゃー!」

と、言い残してヒンがキッチンに居る女性の下に行った。

陳さんはヒンを止めることもなくオドオドと歩き回っている。

俺はヒンと女性の会話をしている様子を見ていたが好感触。

するとヒンより先に女性がこっちに歩いて来て、

「阿陳、我下星期一會去珠海。你可以一起嗎?(来週、珠海に行くから一緒に行こう)」

「好!我會帶你去珠海(Okじゃ俺があんないするよ)」

<えー そこピクチャーに有ったのね・・>

二人の話しの中から、女性はこのレストランの娘さんで、澳門x澳門の両親からの根っからのマカオ人で、林詩詩リン・シーシーという33歳独身であるということと、陳さんが36歳であることも判った。

この日が陳さんにとっていい日になったのは間違いなく、以降のキューピット役のヒンへの態度がそれを物語った。

マカオに来ての初めての夜だったが、のっけから事件が起こった。

そもそもは俺が部屋で例の松田さんのCasinoメモを呼んだことから始まったと言えば・・そうなるが・・

大小タイサイでの出目の確立からサイコロの目が前回までに4,5,6と3回続いて出ている場を探すまたは、その時を待って1と3のペアに賭けろという物。

メモではイメージが出来なかったので陳さんそのことを話して詳しいロジックを聞いたら、居ても立っても居られなかった。

コンピューターのセッティングに時間が掛るという陳さんを残して、ヒンとカジノへ向かった。

同封されていた葡京リスボアVIPカードを見せるとバニーなお姉さまに連れられて上階へ案内された。

5つ6つあるタイサイのテーブルを覗いて周ったがメモの様な局面の場が無かったので1つの一番賑やかなテーブルの前に陣取って観察してみた。

5000~500,000と書かれたチップが転がって皆が一喜一憂しながらゲームが進んでいく。

半時間ほど見てるダケに飽きたのだろうヒン、

「わし あそこ行ってくるわぁー」

と、下でダンスショーが繰り返されているバーの方へ歩き出した。

その直後に条件がそろった!3回目の456!

慌てて1と3へ張ろうと体が動いたが・・チップが無い・・両替のやり方も分からない・・と、ある事にも気が付いた。

よく見ると5000$、100,000$と$と書かれているチップ。

もしかしてまさか・・と、

「我想兌換,但在哪裡可以兌換?(両替ってどしたらいい?)」

と、横の比較的若い華人系男性に聞いたら、不思議そうに、

「喺呢度可以做。或者喺嗰邊個櫃檯可以做。(ここでできるぜ!それか向こうのカウンターか)」

という。

このテーブルで両替を見たことが無かったので、

遠慮というか、とにかく言われたカウンターで自分の財布から500HK$をチップに替えた。

形は同じだが真ん中には500$とあり、念の為テーブルに戻って見直したが・・よく見るとテーブルの上にはmin5000$のタグが掛かっていた。

案内してくれたバニーちゃんが見えたのでよくよく聞くと、ここは大きく2層に分かれていて、

今いるここはあくまでもVIPホールで一般には下の方だと教えてもらった。

慌ててヒンにもそれを伝え下層へと移った。

下の方はエリアも広く、大小タイサイのテーブルだけでも20は在った。

ほぼすべてのテーブルを覗いて周った時、黒服のイカツイ男性から年齢確認だと、身分証を見せろと言われたのでパスポートを渡したが、すぐに笑顔で返された。

(注釈:2012年以降、それまでの18歳から21歳以上に改正。)

そしてここだと決めた場で、今度はテーブルレートも確認してミニマム100$のテーブルに陣取り、間もなく来た456の3回目。

さっきの上の結果ってどだったのかな?とも思いつつ。

賭け方は上で充分に見てきた。迷わず1と3のペアにベット。

蓋されたダイスボックスがコントントントンと鳴り、オープンされたサイコロ!

135・・!? 1と3と5!! でガッツポーズ。

俺の500$チップの横に同じチップが7枚置かれた!

後で考えるとたかだか7~8万円を儲けただけの事だったが、俺には大金だったし、何より500$チップの一点張りをした俺への周りの歓喜が俺を有頂天にした。

ただし、これが事件では無く、

俺はウキウキの超リッチな気分で、今度はダンサーにカブリ付きで見ているヒンに、遊びに行こうと外に引っ張り出して、キラキラとしたネオン街に入っていく綺麗なお姉さまに誘われるがまま入ったナイトクラブでそれは起こった。

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